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これは人形町にあるお店のおかみさんが書いた本についての酒たまねぎやの親父の感想文です。
この本(人形町 酒亭 きく家 繁昌記)は酒について以外は別に対して何も思いませんでしたから、酒の事を書かなければ、ただの女将さん繁盛記といった良くも悪くもない、そこいらによくある普通の本なのでしょう。でも、酒に関しては、あの四谷にある高くて有名な店の店主が書いた本と同じ雰囲気を随所に感じました。たとえば、杜氏に対して、「経験はまだ浅いのですが、なかなか見所のある人で・・」と宣っていますが、飲み屋のおかみさんが、酒造りのプロ中のプロであり、ましてや蔵人のその頭領たる杜氏に対して、酒造りの事で「なかなか見所のある人」などとなかなか言えないでしょう。
あと、「ワイン通の田崎真也さんと高橋時丸さんがホスト役に・・・・」とありましたけど、普通はソムリエをつかまえてワインのド素人が、ワイン通といわないでしょう。だまされて、資格を取って喜んでいる日本酒の利き酒師のアホ連中には「ひょっとして、日本酒通?」とか言ってやればアホばかりですから連中は喜ぶかもしれませんが・・・
また、利き酒をたのまれた時に、この利き酒は間違いありませんと言い切った割には、「結論として、この竹鶴の原酒は18度あるので、割水して16度に落としてお出しするという報告を後で聞きました」とあるのは利き酒が間違っていたという事にはならないのかな。ある蔵元の杜氏さんもおっしゃってらっしゃいましたが、酒に割水をしていくときは0・2度単位ぐらいでしていくそうですので、18度と16度のアルコール度数が2度も違うのは普通は酒として全然別モノ・・・
全国新酒鑑評会の金賞酒についても
「総じて私たちがうま味を感じる、どっしりとしたお酒とはほど遠い場合が多いのですね。変に媚びていて、自分からきれいでしょうといっているようなお酒、香りが高くて、女の子が、まあ、すてきというような、そういうお酒が概していまの品評会の基準になっています。それは、私たちだけでなくて、日本酒の好きな、ちょっと良識のある人たちは、みなさん、いかがなものかと感じているようです。」
確かに金賞酒がすべてでは無いし、それ以外にもいい酒はいっぱいあるのは誰でも知っているが、日本酒の好きなちょっと良識のある人たちとはだれのことなのでしょうか。現在の鑑評会、品評会などの審査方法などについては色々な事が言われています。多くの意見があるのは確かです。ただ、言える事は出品酒を賞を狙って取れるというか、ちゃんとそれを計算して、そのお酒を造れるというのもそこの蔵元さんの醸造技術の一つに違いありません。
「私が二つ選んだ中の一つが、その若手杜氏が造ったお酒で、若手らしい伸びやかさと、それでいて媚びていないどっしりとしたうま味が乗ったお酒でした。そして、まだまだ、これからも伸びる余地のあるとてもいいお酒なんですね。」
「竹鶴さんというイメージが彷佛とする原酒です。どっしり素朴ななかに少し酸度の強い洗練された感じにしたてられている。」
「純米大吟でもそうですけど、純米酒でも小細工しないで、思いっきりつくる人で、素朴ななかにも、爽やかで重い味わいのあるお酒を造ります。」
と表現されていますが、本当に、この酒のコメントが理解出来る人がいるのでしょうか。「若手らしい伸びやかさでいて媚びていない酒」とか、「どっしり素朴ななかに少し酸度の強い洗練された感じ」とか、「小細工しないで、思いっきりつくる」とか、「素朴ななかにも、さわやかで重い味わい」とか、この抽象的なコメントでは酒が、実際にどんな味なのか私などは全然わかりません。とくにさわやかで重い味わいなんて矛盾していませんか???。
「味覚には、甘味、苦味、辛味、渋味、酸っぱさがありますね。その苦味や渋味も含まれます。それが、出すぎてははいけないかもしれないですけど。日本酒は、ある一時期、渋味が雜味と感じられた時期がありましたが、やはり渋味がないと味の深みに物足りなさが残ります。これは私だけではなく、いまおつき合いしている蔵元さんも同じ意見です。」
わたしがおつき合いさせていただいている蔵元さんによると、普通は酒はしぼったばかりですと、渋味を感じるらしいのですが、それは時間が経つと消えるそうです。
さらに私の友人の長谷川さんについても
「はせがわさんは若くて熱心なので新しい蔵元を探すことと香りの高いお酒を育てることは天下一品ですが、酒飲みが腰を据えて飲む、そういうお酒があまりお好きでないのかなと思いました。」
と書いてありますが、自分の好みの酒が酒飲みが腰を据えて飲む酒で、長谷川さん、あるいは長谷川酒店に置いてある酒は違うととれますが、そもそも酒飲みが腰を据えて飲む酒とはどういった酒をいうのでしょう。
「金賞をとらなくてもいいと言い切れる蔵元さんは、いまでもそう多くなくて、この神亀さんと竹鶴さんくらいでしょうか。」
と書いてらっしゃいますが、竹鶴さんは確か過去に三年連続金賞受賞記念酒とかいうのも出荷して、今も当店の冷蔵庫の中にありますし、神亀さんに至っては問題外でしょう。それに金賞狙いの酒造りはやらないという事は義侠の社長が、十数年も前からいってきている事はあなたたちも、義侠の蔵元には一度ならず伺っているはずですから、御存じでしょうに。義侠の山田社長は金賞を昭和五十年代にはバンバンとっていましたが、昭和六十年初めより30%の純米を造る時に「金賞はとれなくてもいい、自分で旨いと思える酒造りをする。」といって、じぶんの理想の酒造りをめざしてやっています。実績、努力とも周りが認め、親分と慕われるわけですが、実績も何も無い蔵が同じ事をいえば、私には単なるハッタリにしかきこえません。
同じページで「この荒っぽさというのは、顕微鏡で見ると、いろいろな分子がバラバラな状態をいい、それらが除々に同じ形になっていくことを熟成というそうです。」
と書いてありますが、こんなうそをどなたがおっしゃったのでしょうか。いったいどのような顕微鏡なのでしょうか。水の分子、アルコールの分子は顕微鏡で見れるはずもなく、現在、熟成というものについて明確な答えはないはずで、アルコールの分子の周りを水の分子が取り囲むのではといわれているだけのようです。この文章のように「いろいろな分子がバラバラな状態をいい、それらが除々に同じ形になっていく」という説明はめちゃ無理があります。
それ以外にも
「このように生酒にもいろいろありまして、ふつうのものは、『3ヵ月以内にお飲みください』と指定されています。どうしてかというと、造った直後の微妙ないろいろな物質を含んでいるので、腐敗しやすいから早く飲むように」
と書いていますが、何処の生酒のボトルにそんな事が書かれてあるのでしょうか。私は15年商売をやってきて、生酒のボトルに「3ヵ月以内にお飲みください」などとそんな事が書いてあるのを見た事がありません。ましてやその理由が「腐敗しやすい」から。その「造った直後の微妙ないろいろな物質を含んでいるので、腐敗しやすい」とはいったいなんという成分なのでしょう。酒の醸造過程であったらともかく、醸造が終わってボトリングし終わったアルコールが16〜18度以上もあるいまどきの酒は、生酒でも三ヵ月どころか十年おいてあっても生ヒネ香などがでて酒が劣化する事があっても、封を切らない酒が腐るなどということはないと思うのですがいかがでしょう。
現実に、今年になってから当店で寝かせてあった生酒の一つで、土佐の酔鯨さんの平成二年の鑑評会出品酒を、製造部長の石元さんが来店時に開けましたが、バランスもすばらしく楽しめました。10年以上たっているとは思えない生酒でした。余計なものをそぎ落としたような、きれいな酒になっていました。火入れしてある酒はともかくとして、今回の酔鯨さんのように10年以上も生ヒネも出ずに楽しめる生酒はめずらしいです。
何度も書きますが、生酒が、経年劣化により味が変わってしまって、酒として飲めなくなるものも多いですが、封を切らなければ絶対に腐る事ははないと思うのです。(味が変化するのは火入れも同じですが・・・)
先日も、愛知県の義侠の蔵元である山忠本家酒造さんで、59BYの純米大吟醸30%の生を飲ませていただきましたが、生ヒネは少しあるものの、充分楽しめました。腐ってなどいませんでした。(平成13年9月)
「秋田の刈穂酒造さんの「六舟」に関しては、まったくその表示がありません。お酒を造る発酵日数をきちっと取っているので弱らないのです。ふつうは二十五日程度のところを山廃仕込みということもあって四十日くらい取っています。実際につかってみて、そういう感じがします。」
とありますが、当たり前の話ですが、発酵日数などというものは何処の蔵元もその時の状況をみてきちっと取っています。短ければいい、長ければいいというものではありません。ましてや、その酒を飲んで発行日数が判るはずがないと思うのですがいかがでしょう。
「私どもの地下には低温の冷蔵庫が二つありますが、一つのほうには、いくぶん湿度をもたせてあります。室内の温度は摂氏5度から7度ぐらいの設定になっていますから、それで悪くなるようなお酒でしたら、置かないほうがいいくらいです。」といっていますが、
飲み屋の親父の素朴な疑問として、日本酒を熟成させるのにどうして湿度が、必要なのでしょう。もし必要ならばどうして片方の冷蔵庫だけ湿度をもたせているのでしょう。
どうして、いくぶんの湿度を。もたせる必要があるのか、なぜ片方の冷蔵庫だけなのかということが、この本では、全然説明されていません。そもそも、コルクを使用してあるワインには、そのコルクが乾くことにより痩せたり、ボロボロに劣化したるするのを防ぐために湿度が必要かもしれませんが(そのために保存する時はワインは寝かせて、コルクにワインの液面が触れるようにしてある場合が多い)日本酒の四合瓶の金属性のスクリューキャップとか、普通の一升瓶に使用してある樹脂性の栓などは別に湿度を持たせるいみがありません。熟成に大切なのは遮光性、安定した温度、などといわれています。ワイン、日本酒とも熟成に最適な温度もあくまで経験値であり、理論値ではありません。
「お酒を頭で飲んでいる方と体で飲んでいる方とがおいでになるということですね。頭で飲んでいる方は、最初はすごく嫌だなあと思った時期もありましたけど、こういう方にはいろいろな情報の提供が一番いいように思います。最近は得意です。知識から入っていらっしゃる方には微妙なところまで説明してさしあげます。」
だそうです。
「神亀さんのお酒はキレがいいので、前のお酒が少しぼんやりしてしまうのかもしれません。このキレというのは一言でいうと酸度です。日本酒の場合、これまでは酸度が比較的低いものをいいお酒と称していました。ところが神亀さんが、はじめて酸度をこれまでの日本酒の枠以上に上げて出してきました。そういうお酒を造る蔵元さんが出てきて、肉に合わせられるお酒ができたことで、ワインと本格的に闘えることになったのだろうと思います。いままでの日本酒ですと、同じ領域ではなかなかワインと闘えないレベルでした。」
と、いろいろ書いてありますが、ワインと闘える酒とはどのような酒でしょう。ここまでいきますと、宗教の世界のように感じます。日本酒でもワインでも酸、その他の成分とのバランスがいい酒が旨い酒です。酸度だけが異常に高い酒は、単なるバランスの悪い不味い酒でしかありません。もっといってしまえば、酸度の高いバランスの悪い酒はよくあるそうです。造りに失敗すると酒は酸度が異常に高くなるそうですから・・・・。
ちなみに、酒は所詮嗜好品ですから旨い、不味いは個人の好みでしょうが、私自身は、バランスの悪いこの神亀という酒は大嫌いです。ましてや、御指摘のキレを感じた事もございません。
最期まで、お読みいただき感謝いたします。
記述内容につきましての責任はすべて酒たまねぎや店主である木下にございます。