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いわゆる従軍慰安婦をめぐり、旧日本軍の関与を認めた93年の「河野(洋平官房長官=当時)談話」の見直し論議が、自民党内で起きている。安倍晋三首相は「河野談話」の継承を明言している。
だが、「当初定義された強制性を裏付けるものはなかった」との発言が、見直し論にくみするものと受け止められ、中国や韓国などの近隣諸国には懸念が広がっている。
 その一方で、米国下院では「河野談話」では不十分だとして、日本に公式な謝罪を求める決議案も提出されている。
 安倍首相は就任直後、中国、韓国を歴訪。途絶えていた両国との首脳外交を再開させた。自民党の「河野談話」の見直し論は、せっかく改善された近隣外交には大いにマイナスだ。安倍首相が継承と言明したのは当然だ。
 韓国人の
元従軍慰安婦らが日本政府に補償を求め、裁判を起こした。これを受け、当時の宮沢喜一内閣は事実関係を調査し、それを踏まえ「河野談話」を発表した。慰安所の設置や慰安婦の移送に旧日本軍が直接、間接に関与したことを公式に認め、「心からおわびと反省の気持ちを申し上げる」と、謝罪した。
ところが、自民党内では「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」を中心に、旧日本軍や官憲が慰安婦として強制連行した証拠資料は見つかっていない、と「河野談話」の見直しを要求する声が強まっていた。小泉純一郎前首相の靖国神社参拝に続く日本の右傾化の流れと見られかねない。
 元慰安婦への謝罪は「河野談話」だけではない。95年には「アジア女性基金」を設立。民間による募金をもとにした見舞金と首相が署名した謝罪の手紙を元慰安婦に届けた。これに対して、首相の手紙には、法的責任は盛り込まれていない、と韓国などでは拒否する動きがあったことも事実だ。
 「河野談話」は、政治決着だったといえる。見直し論は、厳密な史実の裏付けがないことを理由にしているが、戦争責任問題を含めたこの種の問題での政治決着には、あいまいな部分が残るのはやむを得ない。史実を争うなら、歴史研究者に委ねるのが一番だ。日中両国間では、しばしば対立する歴史認識をめぐり、双方10人からなる共同研究委員会が設立されている。
 「河野談話」見直し論のように、政治が不用意に蒸し返すと事態がかえってこじれるケースはよく見られる。長期的な視野に立っての国益をまず考えるのが政治家の責務のはずだ。不健全なナショナリズムをあおる行為は厳に慎まなくてはならない。
安倍首相をはじめ日本の政治家がやるべきことは、明白だ。米下院での決議案を成立させないためにも、近隣諸国の懸念を払しょくするにも、
従軍慰安婦問題で謝罪してきたわが国の立場をていねいに説明することだ。安倍首相は「主張する外交」を掲げるが、主張の結果は、国益に合致したものでなくてはならないはずだ。
毎日新聞2007/03/08 00:04