「酒との出会い」文藝春秋
3月13日日曜日晴れ◯
古本市で購入した本。
「酒との出会い」文藝春秋 一九九〇年刊
「オール讀物」に連載されていたコラム一九七六年から一九八九年までの随筆をまとめたものらしくさすがに作家が一番多いがその他にも、落語家、漫画家、新聞記者、女優、俳優と各界の方が登場している。
一番最初に作家の永井龍男氏が「関東大震災の頃」と題したコラムを書いている。オール讀物一九七六年八月号に掲載したものらしいが、神田駿河台にあった永井氏の御実家が震災で焼けたが幸い家族はが無事だったが、神楽坂界隈まできたら、一帯に地震の被害がなく無事だったことに驚き、矢来下にあった老舗の酒屋で永井氏の兄たちがビールを買ってコップを三つ借りて軒先で飲んだことを「この店先で飲んだ、一杯のビールの味は、生涯忘れまい」書いている。
神楽坂で老舗の酒屋さんというと地元の方は誰もが「升本」さんを思い浮かべるだろうが、どうなんだろう。
蛇足ながら、この本に随筆を書いていらっしゃるなかに当店にいらしてくださったことがある方が二人いらっしゃる。
そのお一人は「置き場のないグラス」と題して下記のように書いている。
<酒そのものを憎んではいないが、酒飲みを疎んじるところが今の私には残っている。
飲めないくせに飲もうとする男を憐れむところもあるし、飲めるのに飲まない人にも感情移入できない。要するに、私は酒に対する態度を、もう四十歳に手が届こうというのに決めかねている。グラスを置くもあげるもならず空中で凍った手の如く、中途半端のままでいるのだ。思えば、父の酒に対する態度となんら変わらないではないか。>
(八七・六)
もうお一人は「ビール一筋」と題して、
<最近、ビールばかり飲んでいる。酒というと私の場合、ビールになってしまう。元々そんなに酒に強い方ではないし、酒の強さを競い合うということも好きではないのでビールくらいが一番いい。
それにビールの最初の一杯は、あらゆる酒の中で一番美味しいと思う。
略)
清水哲男さんと村上春樹さんのお二人を経由して私は今完全にビール党になった。人を酒に誘う時も今では、
「ちょっとビールを飲みませんか」
と言っている>
(八七・七)
随筆を書かれて約三十年経ったわけだが、今お二人はどうなのだろうか。お会いした時にちょっと聞いてみたい気もする。
今日は酒は飲まず。
店を片付け、部屋で一日何もせずに過ごす。
猿でもエビでもない。